学校でのICT導入についての国の方針

2020.08.27

COVID-19が猛威を振るう昨今、我々のライフスタイルは大きく変化しました。そして、そのライフスタイルの変化に伴い、様々な業界がニューノーマルへの対応を求められています。このニューノーマルへの対応において、キーとなっているのは、ICTです。飲食店は顧客が減少する中でオンライン注文サービスに活路を見出し、これまで対面営業が主だった保険業界や不動産業界においてもオンライン営業がひとつの手法として取り入れられつつあります。斯様に、様々な業界がICTを用いた、ニューノーマルへの対応を進めているが、それは教育業界も同様です。寧ろ、今回のCOVID-19を巡る変化の中で、教育業界の変化は一大トピックといっても過言ではないでしょう。

 
元来、官公庁の管理下にある公立の小学校/中学校/高等学校は、一部を除き、前例主義で保守的な傾向にありました。官公庁はリスクを最小化する傾向にあり、それ故、我々の生活は安全かつ潤滑に回っているのですが、同時にそれはイノベーティブな取り組みに欠けることも意味します。そう考えると、公教育がテクノロジー活用に後ろ向きなのも、理解できることです。
一方、私立の学校や大学においては、ICTの活用が進んでいる領域もあります。例えば、授業内でテクノロジーを活用することで海外との交流を行った事例などを耳にしたことがあります。また、大学においては、各校がポータルサイトを持ち、学生とのコミュニケーションをその中で行うことが当然のこととなっています。
 
民間教育機関については、資本主義の特性上、より良いサービスを提供し対価を獲得することを至上とする傾向にあるため、一部の民間教育機関や民間教育機関に対してサービスを提供する企業はかなり先進的な取り組みをしている印象です。オンライン完結型の予備校であったり、AIを活用した教育支援システムであったりと、その例には枚挙に暇がありません。

 
以上のように、私立学校や民間教育機関と比して変化を好まない、つまり、ICT活用が遅れているのが、公立の小学校/中学校/高等学校です。
しかし、COVID-19はそんな公立の学校にも等しく影響を与えました。3月2日、緊急事態宣言に先立ち、休校要請が政府から出され、これより学校は長い休校期間に入ることとなりました。休校期間になれば、当然教室での授業をすることはできません。そこで高まってきたのが、オンライン教育の機運であり、その機運の高まりに合わせて、学校へのICT導入についての議論が各所で活発化しました。

 
そして、この議論に終止符を打つことになる国としての方針が強く打ち出されたのが、5月11日の文部科学省による『学校の情報環境整備に関する説明会』です。文部科学省 初等中等教育局 情報教育・外国語教育課長 高谷浩樹氏 が登壇したこの説明会は、強いメッセージが印象的でした。「えっ、この非常時にさえICTを使わないのなぜ?」、「教育委員会の方々、若しくは学校の管理者の方々、管理職の皆様方、是非頭を180度変えて頂きたい。なんでも取り組んでみてください」、「現場の先生方の取り組みというものを潰さないように、確りとそこは皆様方が、そこをサポートしていかなきゃいけない」という、官公庁らしくない、非常に強い言葉がスライドやスピーチの中にみられました。
結果として、この説明会によって、「学校でのICT導入は議論するものではなく、進めるものだ」というコンセンサスが、各自治体の中で取られました。学校へのICT導入は、議論するものではなくなり、進めるべきものになったのです。

 

しかし、ICT導入の号令が出されただけで、その導入が進むかといえば、そうではありません。当然、国を挙げたプロジェクトとして、学校のICT導入を進めるプロジェクトが存在します。それが、GIGAスクール構想です。このGIGAスクール構想は、今回の緊急事態宣言を契機にスタートしたものではありません。令和1年度より、GIGAスクール構想はスタートしており、実際に、COVID-19が猛威を振るう前の昨年末時点で閣議決定された令和2年度の補正予算案では、GIGAスクール構想の実現に2,318億円の予算が計上されていました。このことからも分かる通り、国の方針として学校でのICT導入は既定路線であり、今回の緊急事態宣言に伴う休校は、その方向への動きを更に加速させる、謂わば、触媒のようなものだったのです。

 
現在、各自治体において、GIGAスクール構想関連のプロポーザルが公告され始めています。国からの号令だけでは実感の沸かないこのプロジェクトですが、実際に案件が公告され、落札企業が決定されるようになると、途端に現実的なものになります。今年度は端末やネットワーク環境の整備が主ですが、支援員の配置やデジタルコンテンツの強化等も来年度以降に予定されており、一旦のプロジェクト完了が予定されている2023年度まで、学校周辺はICT導入で忙しくなりそうです。

 
7月8日、政府から、『経済財政運営と改革の基本方針2020(仮称)』、通称・骨太の方針の原案が発表されましたが、その中でも学校でのICT導入についての言及がありました。GIGAスクール構想の対象である初等中等教育の改革は勿論のこと、大学改革についても、「教育・研究環境のデジタル化・リモート化、国内外の大学や企業とも連携した遠隔・オンライン教育を推進する」、「デジタル化を活かした質の高い教育を実践、リモート留学生・教員も含めたグローバルキャンパスを実現する」といった言及がみられました。

 
昨今、テクノロジーの発展は日進月歩であり、どの業界でもそれを無視することはできなくなっています。これは教育機関にとっても同様のことです。初等教育/中等教育/高等教育の違い、公立/私立の違い、公教育/民間教育の違いに関わらず、ICTについて検討して導入を進めることは、今後、当たり前のことになっていくでしょう。テクノロジーの発展は日進月歩である故、少し前までは、そのようなものを考慮する必要がありませんでした。しかし、逆に言えば、それ故に、テクノロジーが当然のものとして世に広がる未来は遠くないということです。そのような世の中になった時、教育が世界に後れを取らないように、今、教育機関は改革を進めるべきなのではないでしょうか。

  
【参考】
文部科学省 『GIGAスクール構想の実現について 「児童生徒1人1台コンピュータ」の実現を見据えた施策パッケージ』(2020.08.16閲覧)
https://www.mext.go.jp/content/20200219-mxt_jogai02-000003278_301.pdf

文部科学省 『GIGAスクール構想の実現について (リーフレット)GIGAスクール構想の実現へ』(2020.08.16閲覧)
https://www.mext.go.jp/content/20200625-mxt_syoto01-000003278_1.pdf

文部科学省 『GIGAスクール構想の実現について GIGAスクール構想の実現ロードマップ』(2020.08.16閲覧)
https://www.mext.go.jp/content/20200219-mxt_jogai02-000003278_402.pdf

文部科学省 『GIGAスクール構想の実現について GIGAスクール構想の実現ロードマップ』(2020.08.16閲覧)
https://www.mext.go.jp/content/20200219-mxt_jogai02-000003278_402.pdf

首相官邸 『新型コロナウイルス感染症対策本部(第15回)』(2020.08.16閲覧)
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/202002/27corona.html

「GIGAスクール」ch(文部科学省) 『2020年5月11日 学校の情報環境整備に関する説明会【LIVE配信】』(2020.08.16 閲覧)
https://www.youtube.com/watch?v=xm8SRsWr-u4&fbclid=IwAR0Ux4D6R4Im7GBuHn0yxTDXmL_at6NVw1lBkQI5FNn4i0LQKXIfSkzbzGM

内閣府 『経済財政運営と改革の基本方針 2020(仮称)(原案)』(2020.08.16 閲覧)
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2020/0708/shiryo_02.pdf

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