日本語教育機関の認定取得に向けての留意事項【前編】
皆様、本コラムをお読みいただきありがとうございます。船井総合研究所の橋本です。
日本語教育機関の新規設立や、既存事業としての日本語教育部門の拡大をご検討されている経営者の方々にとって、2024年4月1日に施行された「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律」(以下「認定法」)は、非常に重要な意味を持つ法律となります。
認定を受けた日本語教育機関は、文部科学省のサイトで情報が公開され、広告等に認定を受けた旨の表示を付すことが可能となります。これにより、日本語教育を希望する外国人や企業等が、教育内容や質について正確な情報を得て、適切な機関を選択できるようになることが期待されています。
認定は必須ではありませんので、認定を受けずに日本語教育事業を行うこと自体は可能です。しかし、留学の在留資格を持つ外国人留学生を受け入れる機関については、2029年3月31日までに認定を受ける必要があります。また、大学等が非正規生を留学の在留資格で受け入れ、専ら日本語教育を行う場合も、原則として認定が必要となります。このため、特に「留学」を目的とした外国人材の受け入れを事業の柱とされる場合は、認定取得が不可欠となります。
本コラムの前編では、認定取得に向けて経営者の皆様が特にご留意いただきたい事項の中から、「資金」、そして事業の根幹をなす「校地と校舎」に焦点を当て、解説します。
設置に求められる資金
認定法において、日本語教育機関の設置者には、機関を経営するために必要な経済的基礎を有することが求められています。これは、安定的かつ継続的に質の高い日本語教育を提供するための基盤となるため、非常に重要な要件です。
具体的に、認定審査では以下の点が確認されます。
①運用資金の保有と債務超過の状況
申請時点で、当面(1年以上が望ましい)の運用資金を保有しているか。
債務超過の状態ではないか。
過去に債務超過だった場合は、解消が確認され、かつその間の営業利益が黒字であることも確認されます。
②他の事業との区分
設置者が日本語教育機関以外の事業も行っている場合、日本語教育機関の経営と他の事業の経営を明確に区分し、収入・支出を適切に管理することが求められます。
原則として、日本語教育機関としての収益は、その機関の運営に充てられるべきです。他の事業に充当する場合は、日本語教育機関の運営に支障がないか、個別の事情に基づいて慎重に審査されます。
③仲介料等の適正性
生徒募集や入学手続きの支援を第三者(いわゆる仲介業者など)に委託し、手数料等を支払う場合、生徒一人当たりに支払う費用が、生徒から徴収する授業料等の額と比較して「相当程度高額でないこと」が確認されます。
設置者要件における運用資金は、あくまで日本語教育機関を運営するための資金を指しますが、提出された財務書類から法人全体の収支状況も勘案して適否が判断されます。
認定申請時には、これらの経済的基礎を示すために、決算書、納税証明書、預貯金等証明書などの書類の提出が必要となります。特に法人の場合、法人全体の書類に加え、日本語教育機関に限定した資産・負債の状況を示す書類の提出も求められます。設立後間もない法人で決算書や納税証明書がまだ準備できない場合は、申請時点で提出可能な書類について事前に文部科学省に相談することが推奨されます。
これらの資金に関する要件は、経営の安定性、すなわち事業の継続性を担保するためのものです。日本語教育は、生徒の将来を左右する重要な教育サービスであるため、一時的な流行や安易な参入ではなく、長期的な視点に立った盤石な経営計画が求められていると考えらます。
必要な校地と校舎
日本語教育機関が教育活動を行う上で、物理的な場所、すなわち校地と校舎は不可欠です。認定基準では、校地と校舎に関する詳細な基準が定められており、その適否が審査の重要なポイントとなります。
認定基準の基本的な考え方として、校地および校舎は、原則として設置者の自己所有であり、かつ、抵当権等の「負担」が付いていないことが求められています。
しかし、現実には様々なケースが想定されるため、いくつかの例外も認められています。
例えば、国または地方公共団体の所有で、法令により譲渡が禁止されているなど譲渡できない特別な事情がある場合で、かつ、認定後20年以上にわたり使用できる保証があり、運営に支障がないと認められるときなどがこれに該当します。
また、学校教育法第1条に規定する学校、専修学校、各種学校等を10年以上継続して運営している者が設置する場合で、日本語教育機関の運営に支障がないと認められるときも例外として認められる場合があります。
これらの例外規定は、自己所有でなくとも、長期間にわたり安定的に日本語教育機関を経営できる蓋然性が高いと判断される場合に適用されます。
さらに、自己所有であっても、「負担附きであることにやむを得ない事情がある場合」も例外的に認められます。
例えば、校地や校舎を取得するための資金を借入によって賄い、これに伴って抵当権等が設定される場合などが想定されています。
ただし、当該借入金の返済計画が実現可能なものであり、かつ、近い将来において校地や校舎が負担のない状態になることが確実であると認められる必要があります。
事業計画を立てる際には、これらの校地・校舎に関する要件を十分に理解し、長期的な視点での施設の確保計画を策定することが重要です。特に、賃貸や負担付きとなる場合は、例外規定に該当するか、どのようにすれば認定基準を満たせるかを慎重に検討する必要があります。
校地の条件
前述の通り、校地は原則として設置者の自己所有であり、負担が付いていないことが求められます。例外規定については既に述べましたが、ここでは校地に関するその他の条件について触れます。
・必要な面積の確保
校地は、校舎その他必要な施設を保有するために必要な面積を備えている必要があります。具体的な面積基準は校舎の面積基準によって間接的に規定されます。
・位置および環境
校地は、教育上および保健衛生上適切な位置および環境にあることが求められます。同じ建物内や近接する建物内に風俗営業等がある場所は避けるべきとされています。
申請時には、校地の権利関係、面積、位置および環境を示す書類として、登記簿謄本や賃貸借契約書の写し、日本語教育機関周辺の略図などを提出する必要があります。特に賃貸の場合は、賃貸借契約書等により20年以上の使用保証など、長期的な使用権限を示すことが求められます。
校舎の条件
校舎についても、原則として設置者の自己所有であり、負担が付いていないことが求められます。例外規定は校地と同様です。
校舎には、その日本語教育課程の目的、組織、および生徒数に応じて、教室、教員室、事務室、図書室、保健室その他必要な施設を備えなければなりません。ただし、「留学のための課程」を置かない機関の場合は、近隣の図書館や病院等との連携により、図書室または保健室を備えないことも認められます。
校舎の面積については、以下の二つの基準を満たす必要があります。
・総面積: 115平方メートル以上であること。
・生徒一人当たりの面積: 同時に授業を行う生徒一人当たり2.3平方メートル以上であること。
複数の場所に校舎を設ける場合、いくつかの制約があります。
・設置場所の数: 3箇所以内であること。
・校舎間の距離: それぞれの校舎間の距離がおおむね800メートル以内の位置に配置しなければならないこと。
新設を検討される経営者の皆様にとっては、物件選定の段階からこれらの基準を強く意識し、専門家とも連携しながら慎重に進めることが、スムーズな認定取得、そしてその後の安定運営につながるでしょう。
また、認定申請のプロセスは非常に詳細かつ厳格なものです。
申請書類の準備には多大な時間と労力が必要となり、特に必要書類の記載内容と添付資料の整合性、さらには現地の実態との一致が重要視されます。
事前相談は必須であり、申請書類の形式的な確認が行われますが、内容の適否そのものに関する踏み込んだ助言は得られない場合が多い点に留意が必要です。
最終的な審査は外部有識者で構成される審査会で行われ、面接審査や実地審査も実施される可能性があります。
さいごに
これから日本語教育事業に参入される経営者の皆様にとって、認定取得は事業の信頼性を高め、特に留学部門においては必須となる重要なステップです。
今回解説した資金、校地、校舎に関する要件は、その中でも初期段階で最もコストと時間のかかる部分であり、綿密な計画と準備が成功の鍵となります。
不透明な点や判断に迷う場合は、法律、告示、各種手引き、よくある質問集などの公開情報を熟読するとともに、必要に応じて専門家のアドバイスを求めることをお勧めします。
認定制度の趣旨を理解し、生徒にとって真に質の高い日本語教育を提供できる機関の設立を目指して、適切な投資と体制整備を進めていただければ幸いです。