日本語教育機関の認定取得に向けての留意事項【後編】
本コラムをお読みいただきありがとうございます。
船井総合研究所の橋本侑樹です。
前回のコラムで、日本語学校新設にあたっての必要資金と校地校舎についてご説明いたしました。
さて、今回の後編では
認定日本語教育機関の運営において特に重要となる「教職員」「生徒募集」「定員」の3つのテーマに焦点を当て、解説いたします。
教職員体制の構築と新たな資格制度への対応
認定日本語教育機関には、日本語教育の質を担保するための強固な教職員体制が求められています。
最も重要な変更点の一つは、認定の対象となる日本語教育課程を担当するすべての教員が「登録日本語教員」である必要があるという点です。
登録日本語教員の資格は、原則として日本語教員試験の合格と実践研修の修了によって取得されます。
この新たな資格制度導入に伴い、法施行後5年間は経過措置が設けられています。これは、制度施行前から日本語教育に携わってきた現職の教員に配慮するための措置であり、一定の基準を満たす現職教員は、試験や実践研修が免除される場合があります。
現職教員とは、平成31年4月1日から令和11年3月31日までの間に、法務省告示機関、国内の大学、認定日本語教育機関(認定前実施課程含む)、または文部科学大臣が指定する日本語教育機関で、1年以上日本語教育課程を担当した方を指します。この「1年以上」という経験は、平均して週1回以上の授業を担当していた場合に該当するとされています。大学での勤務経験も対象となり、一定の日本語能力を有する留学生への教育経験も含まれます。ただし、海外の機関や、高等専門学校、高等学校、中学校、小学校等での経験は現職者の要件に含まれません。経過措置の詳細については、ご自身の経歴と照らし合わせて確認が必要です。
教員だけでなく、機関の運営を担う主要な職員についても要件が定められています。
•校長
認定日本語教育機関の業務を統括し、教職員を監督する責任者です。認定機関の運営に必要な識見を有し、原則として教育に関する業務に5年以上従事した者である必要があります。識見としては、関係法令の理解、職員の人事管理、生徒管理、施設管理、運営事務に関する知識が求められます。
校長としてふさわしい社会的信望も要件です。他の認定機関の校長を兼務する場合、原則として副校長を置く必要がありますが、隣地に立地する場合は例外です。校長が常勤でない場合は、副校長との適切な連携体制が求められます。審査においては、校長と主任教員の兼務の妥当性や、両者が同時刻に授業を担当する場合の危機管理体制なども確認されます。
•主任教員
教員の指導にあたり、日本語教育課程の編成に責任を担う者です。教育課程の編成及び他の教員の指導に必要な知識技能を有し、当該機関の本務等教員であり、当該機関または特定の機関(法務省告示機関、大学など)で本務等教員として日本語教育に3年以上従事した経験が必要です。
就労または生活のための課程を置く機関の主任教員は、事業主や地方公共団体その他の関係者との連携体制整備に必要な知識経験も求められます。3年以上の経験は、複数機関での経験を合計することが可能であり、産前産後休業期間は算入できますが、育児休業期間は算入できません。主任教員としてふさわしい社会的信望も要件です。
•本務等教員
日本語教育課程に係る業務について責任を担い、専らまたは本務として当該機関の教育に従事する教員を指します。
最低配置数は、日本語教育課程の目的別の合計収容定員数40人につき1人以上であり、かつ最低2人を配置する必要があります。本務等教員であるかどうかは、勤務時間数、給与、社会保険加入の有無、授業担当時間数、業務内容、他の職業の有無やその内容などから総合的に判断されます。
原則として複数の認定機関で本務等教員となることはできません。ただし、就労・生活課程においては、地域内で他に確保できないなどやむを得ない事情があり、各機関での実施状況が週1回程度で他の教員との連携に支障がない場合は例外的に認められることがあります。機関全体の管理責任の観点から、フルタイムや正社員の本務等教員が極端に少ない、あるいはいない場合は不適切と判断される可能性もあります。
•教員全体の配置数
認定日本語教育機関に置かなければならない教員の数は、目的別の合計収容定員数20人につき1人以上であり、かつ最低3人を配置する必要があります。
•生活指導担当者
留学のための課程を置く機関に配置が必要で、生徒の生活指導・進路指導を行います。必要な知識経験を有することが要件です。母語その他の、生徒が十分に意思疎通できる言語での対応が可能な者が確保されていることが求められます。通訳派遣会社との提携や翻訳機器の使用だけでは認められず、機関において人材を確保する必要があります。事務員との兼務も可能ですが、業務に支障がない体制が必要です。
これらの教職員体制に関する基準は、機関の教育の根幹をなす部分であり、認定審査において非常に重視されます。経営者としては、単に人数を揃えるだけでなく、各教職員の経験、知識、役割分担、そしてそれらが組織的に連携できる体制が適切に構築されているかを慎重に検討する必要があります。
生徒募集活動における透明性と適正な選考
認定日本語教育機関の生徒募集活動には、入学希望者や社会一般に対して正確かつ必要な情報を適切に提供することが求められます。
•認定・届出前のPR活動・生徒募集
新設機関の認定申請や、既存の認定機関による教育課程の新設・収容定員数変更の届出前には、PR活動や生徒募集活動に一定の制限があります。
入学希望者への不利益を防ぐため、原則として認定・届出確認後にこれらの活動を行うべきですが、例外的に、「計画は現在申請中(または予定)」であること、「内容に変更があり得る」ことを大きく明確に、外国語も用いて周知することを条件に、申請提出後に生徒募集活動を行うことが認められています。特に留学のための課程の場合、「認定を受けられなかった場合には留学ビザが得られず入国できない」可能性があることを確実に理解させるため、書面(入学希望者の解する言語で記載)で確認する必要があります。これらの周知や書面確認を怠った場合、不適切な募集活動とみなされる可能性があります。
•生徒の選考
留学のための課程を置く機関は、教育課程の目的・目標に応じて、入学希望者の日本語能力および学習意欲を試験その他の適切な方法で確認しなければなりません。試験の他に、レポート、作文、面談などが適切な方法として想定されます。
選考基準としては、日本語能力・日本語学習歴、学歴、学費・滞在費の支弁能力などが考慮されます。教育課程の主たる目的と生徒の学習目的が一致しない場合でも受け入れ自体は可能ですが、目的を達成しない生徒が多数生じる場合は運営が不適切とみなされる可能性があります。
•仲介業者の利用
生徒募集や入学手続き支援のために第三者(仲介業者等)に費用(仲介料等)を支払う場合、その額が生徒一人当たりが支払う授業料等の額と比較して、相当程度高額でないことが求められます。具体的な割合の基準はありませんが、教育の質確保の観点から個別に判断されます。
仲介業者への手数料についても、施行規則第7条第8号に基づき、自己点検評価において適正性を評価する必要があります。仲介者が関与する場合は、その業務内容、入学希望者が仲介者に支払う金銭の額などを記載した書類を提出します。
生徒募集活動は、機関の入り口であり、その透明性と適正性は非常に重要です。特に海外からの学生募集においては、現地の情報提供体制や仲介業者との連携のあり方が、学生の期待と機関が提供する教育内容とのミスマッチを防ぎ、結果的に学生の定着率や学習成果に影響します。法令遵守はもちろんのこと、学生の将来や機関の信頼に関わる活動として、経営者自らが深く関与し、責任を持つ必要があります。
定員管理と教育環境の維持向上
認定日本語教育機関においては、施設の規模や教職員体制に見合った適切な収容定員数を設定し、これを遵守することが、教育の質を維持し、安定した運営を行う上で不可欠です。
•収容定員数の設定
各日本語教育課程について、施設設備やその他の条件を考慮して、生徒の収容定員数を適切に定める必要があります。
•合計収容定員数
認定基準上の定員は、留学、就労、生活の目的別に、それぞれの課程の収容定員数を合計した数で管理されます。ある分野の合計収容定員数を超えて、その分野の課程に生徒を入学させてはなりません。
ただし、文部科学大臣が特別の事情があり教育上支障がないと認める場合はこの限りではありませんが、これは容易には認められない例外措置です。
•新規開設時の上限
法第2条第1項の認定を受けた後、最初の課程始期から1年間は、各目的別の合計収容定員数は100人以下と定められています。
ただし、法務省告示機関からの移行の場合、認定申請時に現に設置されている課程の合計収容定員数と100人のうち、いずれか大きい数以下となります。新たに別の目的の課程を新設する場合も、変更届出後の最初の課程始期から1年間は合計収容定員数100人以下となります。
•1クラスあたりの上限
1つの授業科目について、同時に授業を行う生徒数は原則として20人以下です。ただし、講義形式の授業で、生徒の日本語能力(おおむねB1以上が想定される) や教室面積(1人あたり1.5㎡以上が必要)、その他の施設設備、授業内容等を考慮して教育上支障がないと認められる場合は、20人を超えて授業を行うことが可能です。しかし、このような例外的な運用を多用することは望ましくありません。
適切な定員管理は、過密な教育環境や教職員への過度な負担を防ぎ、教育の質を維持するために不可欠です。特に、新規開設後の定員増加は、単に希望すれば認められるものではなく、過去の運営実績に基づいた段階的な拡大となります。
経営者としては、現実的な学生募集計画と連動させながら、無理のない定員設定と計画的な増加を目指すことが重要です。また、定員だけでなく、教室面積や教職員数といったリソースが、教育活動に必要な基準を満たしているかを常に確認し、教育環境の維持向上に努める必要があります。
まとめ
日本語教育機関認定法は、日本語教育の質向上と日本語教員の専門性確保を目指す画期的な法律です。経営者として、この制度を深く理解し、認定基準に適合する教職員体制、生徒募集の透明性確保、適正な定員管理を実践することは、法令遵守にとどまらず、機関の信頼性を高め、持続的な発展を遂げるための重要な経営課題となります。
特にこれから日本語学校の新設を検討される皆様にとっては、これらの要件を満たす体制を立ち上げることが認定取得の前提となります。計画段階から法令や関連資料を丁寧に読み込み、不明点は文部科学省の事前相談などを活用しながら、実現可能で質の高い日本語教育機関の設立を目指していただきたいと思います。